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第40回 日本頭痛学会総会 1日目のまとめ(平成24年11月16日)

II.シンポジウム1 脳脊髄液減少症

【当院での背景】起立性頭痛は、あまり整理されていない感じがしていたので、今まで積極的には診断していなかった。心因性頭痛との区別があまりに困難との印象をもっていたし、問診に限界を感じるし。しかし、そろそろ共通見解が出てきたようだ。というわけで、今後は当院でも起立性頭痛の診断を積極的に始めようと思う。その端緒となるシンポ。

(1)Lumbar-uplift testによる起立性頭痛のスクリーニング 問診との比較

慢性連日性頭痛患者に対し、問診で起立性頭痛が検出できるか検討した。1.睡眠時などしばらく臥位になると頭痛が楽になるか?2.起床時、上体を起こしたのちに頭痛が増悪するか?の2点で問診。そののち起立性頭痛と思うかどう被験者に判定させた(半構造化問診)。その結果とLumbar-uplift testとの比較。Lumbar-uplift testとは、小林先生考案の方法で、仰臥位ではなく積極的に腰を上げた姿勢をとらせて、頭痛が改善するかどうか判定する。結論、LUTをしないと見逃しが多い。

【解説】たしかに起立性頭痛は、問診しても、はっきり答えられる人はあまりいないので、有用な方法かと思う。しかし、頭痛の人に、腰を上げて寝てもらうのも、少々面倒だ。慢性連日性頭痛の人にシェロング(立位での血圧変化)をするときに、腰を上げて寝てもらうようにして、頭痛の変化を記録しようと思う。
POTS体位性頻脈症候群の診断のために、シェロングの時、脈も同時に記録することにしたし、今後、当院のシェロングのやり方は、若干変化します。
POTS、心因性の頭痛をどう除外するか、という話題が出た。治療という点からすると、POTSは安静にしてはよくないし、特発性低髄液圧症候群SIH*では安静が基本なので、その区別は重要だ。POTSは連日性頭痛になることは少なく、SIHでは寝てもすぐに楽にはならない、という意見だった。

*参考
I-19 特発性低髄液圧性頭痛はどのように診断し、治療するか

推 奨
【グレードA】

1.診断
特発性低髄液圧性頭痛は国際頭痛分類第 2 版(ICHD-II)に準拠して診断する。
2.治療
治療はまず安静臥床・輸液などの保存的療法を行う。改善が認められない場合に画像診断で髄液漏出部位を確認できれば、硬膜外血液パッチ(epidural blood patch : EBP)などの侵襲的な治療の適応を考える。

【背景・目的】
国際頭痛分類第 2 版(ICHD-II)によると、低髄液圧による頭痛は、7。「非血管性頭蓋内疾患による頭痛」の7.2「低髄液圧による頭痛」にコード化され、さらに下記のサブフォームに細分化される。
7.2.1 硬膜穿刺後頭痛
7.2.2 髄液瘻性頭痛
7.2.3 特発性低髄液圧性頭痛

特発性低髄液圧性頭痛は、自発性頭蓋内圧低下症(spontaneous intracranial hypotension)、一次性頭蓋内圧低下症(primary intracranial hypotension)、髄液量減少性頭痛(low CSF-volume headache)、低髄液漏性頭痛(hypoliquorrhoeic headache)などの呼称が用いられてきたが、「特発性低髄液圧性頭痛」(7.2.3 Headache attributed to spontaneous(or idiopathic)low CSF pressure)が採用された。
特発性低髄液圧性頭痛の本態は脳脊髄液量の減少による。 脳脊髄液量減少は頭痛のみならず、多彩な症状を出現させる(低髄液圧症候群)。髄液圧はMonro-Kellie doctrineにより代償されて正常圧となりうる。そこで特発性低髄液圧性頭痛に対して「脳脊髄液減少症」という病態名も提唱されている。
特発性低髄液圧性頭痛は「特発性」という名称にもかかわらず、最近は神経根の通過するdural sleeve からの漏出(dural tear)や髄膜憩室からの漏出が有力な原因とされている。その誘引としては、いきみ、咳込み、気圧の急激な低下、性行為、頭頸部外傷、しりもち、結合組織の異常による硬膜脆弱性などが挙げられている。 低髄液圧の原因にはビタミンA低下症など髄液の産生低下によるものも存在することに留意する。
頭部外傷後遺症、むち打ち症、自律神経失調症、不定愁訴、慢性疲労症候群、うつ病と診断されてきたもののなかに「脳脊髄液減少症」が含まれている可能性が本邦で報告されている。

【解説・エビデンス】

■7.2.3 「特発性低髄液圧性頭痛」の診断基準(ICHD-II)

A.頭部全体 および、または 鈍い頭痛で、座位または立位をとると15分以内に増悪し、以下のうち少なくとも1項目を満たし、かつDを満たす
1. 項部硬直
2. 耳鳴
3. 聴力低下
4. 光過敏
5. 悪心

B.少なくとも以下の1項目を満たす
1. 低髄液圧の証拠をMRIで認める(硬膜の増強など )
2. 髄液漏出の証拠を通常の脊髄造影、 CT脊髄造影、または脳槽造影で認める
3. 座位髄液初圧は 60 ミリ水柱未満

C.硬膜穿刺その他髄液瘻の原因となる既往がない

D.硬膜外血液パッチ後、72 時間以内に頭痛が消失する

ICHD-IIの基準には特発性低髄液圧性頭痛(以後 SIH : spontaneous intracranial hypotension と略記)の症状、検査所見、治療が簡潔に定義されている。SIHの診断・治療法についてはこの診断基準から出発するのが適当である。 診断基準のD項目として硬膜外血液パッチによる症状改善が診断条件に含まれているが、これは硬膜外血液パッチを施術しないと特発性低髄液圧性頭痛と診断できないということではなく、SIHに硬膜外血液パッチを施術した場合は「72時間以内に頭痛が消失する」という意味である。

●頭痛について
起立性頭痛 orthostatic headache が特徴であるが、それが顕著でないケース、まれに逆説的体位性頭痛のこともある。 時に雷鳴頭痛として発症する症例もある。 低髄液圧症候群以外の起立性頭痛の原因としてたとえば体位性頻拍症候群(POTS)が挙げられる。

●頭痛以外の症状
ICHD-IIでは項部硬直、耳鳴、聴力低下、光過敏、悪心のなどの症候を診断条件に挙げている。 日本脳脊髄液減少症研究会は脳脊髄液減少症の症状として表1のような症状を挙げている。これらは発熱・下痢などの軽度の脱水状態で症状が悪化する。

表1.脳脊髄液減少症の症状(日本脳脊髄液減少症研究会)

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1)痛み:
*頭痛、*頸部痛、*背部痛、腰痛、四肢痛
2)脳神経症状:
*嗅覚障害、*視力障害、*複視、顔面違和感
*聴力障害、耳鳴、眩暈、*味覚障害、咽頭違和感
3)自律神経症状:
*微熱、*動悸、胃腸障害(腹痛・便秘・下痢)、手足冷感、*発汗異常
4)高次大脳機能、精神症状:
記憶力低下、思考力低下、*集中力低下、*睡眠障害、うつ状態
5)その他:
内分泌障害、全身倦怠感

*を付した症状は多くの患者に共通して認められる症状を示す。

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●髄液圧
SIHの診断には腰椎穿刺を行い、髄液圧の低下を証明することが重要ではあるが、腰椎穿刺自体がさらなる髄液漏出を招く可能性があるので、硬膜の増強などMRI所見陽性の患者では避けるべきである。SIHでも髄液圧は Monro-Kellie の法則により正常圧となる可能性もある(宮澤の報告では18%、Mokriの報告でも18%が該当)。ICHD-IIの診断基準ではMRI所見、脊髄・脳槽造影所見、髄液圧の少なくとも1項目を満たせば必ずしも低髄液圧でなくてもよいとされている。

●画像診断
脳脊髄液減少症の画像診断検査には脳脊髄液漏出を診断するRI cisternographyやCT/MR myelographyによる直接所見と、脳脊髄液減少を示すMRI所見がある(表2)。 通常のCTの診断的価値は乏しい。まれに低髄液圧症候群には両側性慢性硬膜下血腫を合併することもあり、その場合はCTも診断の補助になりうる。
MRIによる硬膜造影所見は低髄液圧症候群を疑う有力な根拠であるが、必ずしもこの像が捉えられるとは限らない。 一方、悪性腫瘍の硬膜浸潤、肥厚性硬膜炎など多くの疾患で硬膜造影が認められる。

表2.脳脊髄液減少症の画像診断

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1)低髄液圧の所見(間接所見)
MRI(単純+ガドリニウム(Gd)造影、矢状断+冠状断)
a)脳偏位の所見
硬膜下腔拡大、小脳扁桃下垂、鞍上槽の消失、脳幹(橋)の扁平化
b)うっ血の所見
びまん性硬膜増強効果、脳表静脈の拡張、脳下垂体の腫大
2)脳脊髄液漏出の診断(直接所見)
RI cisternography, CT/MR myelography
a)脳脊髄液漏出像
b)RI膀胱内早期集積像

●Mokriによると髄液量減少症候群は表3の4タイプに分かれる。SIHはさまざまな病型があることに留意して診断する。

表3.髄液量減少症候群の4タイプ(Mokri,1999)

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I型(典型):
頭痛あり、MRI異常、低髄液圧
II型(正常圧型):
頭痛あり、MRI異常、髄液圧正常
III型(正常髄膜型):
頭痛あり、低髄液圧、硬膜造影なし
IV型(無頭痛型):
低髄液圧、MRI異常、頭痛なし

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■治療
SIH に対して Mokri は表4に示すような治療法を挙げている。
表4.低髄液圧症候群の治療法(Mokri,2004)
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1.安静臥床
2.水分補給
3.カフェイン
4.テオフィリン
5.腹帯
6.コルチコステロイド
7.消炎鎮痛薬
8.硬膜外血液パッチ(EBP)
9.硬膜外生理的食塩水持続注入
10.デキストランの硬膜外注入
11.フィブリン糊硬膜外注入
12.液体髄注
13.漏出部位の修復術
―――――――――――――――――――――――

SIHの治療法は保存的治療と侵襲的治療に分かれる。SIHはときには自然治癒することもあり、その補助手段として安静臥床と輸液(1000~1500mL/日)などの保存的治療は有効である。 約2週間の治療が望ましい。
侵襲的治療としては硬膜外血液パッチ(epidural blood patch : EBP)がある。 漏出部位が同定されている場合には、その近傍からEBPを施行する。漏出部位が同定されていない場合には、まず腰椎部からEBPを施行し、次に頸椎~上位胸椎部からEBPを施行して脊椎硬膜外腔の全域に血液パッチを行う。その際には、EBPに用いる血液に造影剤を加えて(血液:造影剤= 3:1)、X線透視下にEBPの血液の拡散を確認するとよい。 注入量:腰椎部から注入する際は、成人男性20~30mL、成人女性 15~25mL、頸椎・胸椎から注入する際は15mL以下が目安となる。

EBPの効果はSencakovaらによると36%(9/25)は最初のEBPによく反応、33%(5/15)は2回目の EBPで症状消失、3回以上(平均値4回)のEBPにより50%(4/8)が有効であった。 外傷性低髄液圧症候群については改善以上が65%(95/147)と報告されている。EBPの厳密なRCTによる有効性の検討は今後の課題といえる。

(2)外傷後脳脊髄液減少症のMRミエログラフィーMRM

SIHに比べると、外傷後は画像所見に乏しい。
1.MRI 役に立たない
2.RIC脳槽シンチ 穿刺部からのもれと区別が?
3.MRM 穿刺しないで診断できるので有用

(3)未成年の低髄液症候群 12例(9例は外傷後、平均16歳)で検討。

小児は少ない。
頭痛主訴で、学業に支障をきたすレベル。
RIC、CTMで非対称的な漏れなら確定診断。
穿刺部位からの漏出の問題を避けるため、RICとCTMは別の日に行った。
11名にEBP行い8例で改善。

・問題点
POTSとの鑑別は困難で、一週間安静にして頭痛が改善することを確認。
クリスマスツリーサインは、すべて除外すべきか?

*余談 SIHは結合織の先天異常が多い。例)先天性結合組織形成不全症 エーラス・ダンロス症候群。皮膚の過伸展、関節の過可動、皮膚の脆弱、易出血を呈する。マルファン症候群。・循環系(心臓・血管)大動脈解離、大動脈弁閉鎖不全・骨と筋肉 、手足が長い、両親に比べ高身長・目、若年性の白内障。

(4)SIHと慢性硬膜下血腫CSDHの合併。8例で検討。

・41F。SIH疑い、両側SDH薄くあり。入院安静でも頭痛悪化。RICで漏出なし。その後意識低下有、SDHふえたためOpして改善。
・48M。両側のSDHで紹介。主訴頭痛。RICでもれあり、EBPで改善。
・46M。頭痛主訴。両側SDH。↑同様。SIHとSDHどちらを先に治療するかはまだ検討中。

質問やコメント

  • 両側のSDHは急に意識が悪くなることあり、注意が必要。だからSDHの治療を優先すべき。しかし、SDHが自然治癒することもある(3/8例)ため、議論が必要。
  • 比較的若い人に多い?(SDHは高齢者に多い)
  • SDHの圧が低い(SIHがあるから?)
  • SIHをEBPするとSDH悪化する?

(5)脳脊髄液漏出のないSIH

RICで漏出なし。
・57F。主訴頭痛、起立性頭痛。MRIで硬膜増強、RIC-、CTM+。EBPで改善。
・68F。2年前転倒、その後、ゆがんで見えたり(視力障害)、めまい、頭痛出現。EBP(漏出止める)と生理食塩水・人工髄液注入(液増やす)で改善。

シンポジストからTake home message

(1)小林D 1500人の頭痛初診で130人が起立性頭痛だった。少なくない。EBPまでしたのは4名のみ。補液・安静程度で自然治癒が多い。初診で診断つけてあげることが大切。
(2)高橋D MRMで確定し、EBP行い90%は改善。しかしEBPは広範囲に必要だった。
(3)不破D 対象が1、検査してほしい 2、体位性頭痛の既往、の患者。SDHの合併は20才以下ではないが、40歳くらいではある。
(4)戸田D SDHとISHの合併。急性期であれば治療反応性が良い。SDH高齢者だと予後悪い?ICP(髄液圧)高いからかも。ISH合併例はICP低い傾向にあるが。
治療は安静だが、高齢者を寝かしておいていいか?という問題がある。だからSDHの治療を積極的にすべきという意見もある。SDHを治療すると体位性頭痛も改善する。
(5)篠永D 1、CSF量 2、漏出 3、ICPと3つの要素がある。EBPして漏出なくなっても頭痛が続く人あり。髄液が増えにくい人がいるのではないか?静脈圧が低くて吸収が多いとか。

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